「恋する妙高」第1話 睡蓮

今、妙高池の平温泉“いもり池”のスイレンの花が見頃だ。
妙高山や雲が映る水面に、
白とピンクの花びらがプカプカとこちらを見ているようで愛らしい。
数年前いもり池は大幅な工事をした。
池の水を全部汲み上げユンボで堀を掻き石を積み、
池を一周できる遊歩道はコンクリートに変わった。
何も知らず散歩に出かけた私はその様子を見て驚愕した。
何か取り返しのつかないことをしてしまってるのではないか・・。
こんなことをしたらもう鴨たちもアメンボも居なくなって
スイレンも咲かなくなってしまうのではないか・・。
胸が張り裂けそうな思いだった。同時に自分を思った。
無茶をして体を壊し、その時は病院通いの身で放射線治療というのをしていた。
自分の心にも体にも取り返しのつかないことをしてしまってる・・
両親や歌を待ってくれているかもしれないみんなに毎日申し訳ない気持ちだった。
それからしばらくの間、工事が終わっていたのは知っていたが、
私はいもり池に足を向けることができないでいた・・。
翌年の初夏、一緒に散歩中の犬に引っ張られるように私はいもり池のほとりに向かう。
池を見るのが恐くてなかなか目を開けられない。意を決っしそっと目を開けると、
一面・・、スイレンの花が空を仰いでいた・・。まぶしかった・・。 
何の言い訳もせずに当たり前のように咲くスイレンに手を伸ばし、
私は長い時間咽び泣いていたようだ。 
帰り道、夕映えに妙高山は淡くピンクに染まっていた。
その日以来、私は病人をやめた。